INHERITANCE
相続
相続は滅多に発生するものではありませんので、普段は案外無頓着になりやすいかもしれません。当職自身も母が他界し相続が発生したときはまだ行政書士試験に合格していないときで、いざ発生すると知識が薄く大分苦労致しました。相続に関しては、民法に土台となるいくつかの事項が記されております。現在、民法が定める相続に関するいくつかの事項をQ&A形式にまとめると以下の通りになります
相続とはそもそもどのようなものでしょうか。
相続人は被相続人の財産にかかわる全ての権利及び債務をも引き継ぎます。つまり、被相続人に生前債務がありまだ履行されていない場合は相続人が履行の義務を負います。
また、仏壇や墓などに関しては祭祀承継者の方が引き継ぎますがこれは慣習に従えば被相続人の御長男です。この方が仏壇や墓などを引き継ぐことになりますが仮に被相続人が生前にどなたかを承継者と指定していた場合はその方が引き継ぎます。
被相続人の死後、相続人は被相続人の財産を管理しなければならないと思いますがこの場合相続人に金銭面の負担は生じますか。
いいえ、これは被相続人の財産の中から支弁されます。
誰に相続の資格がありますか。
まず、被相続人の配偶者は常に相続人となります。
更に、血族相続人という方々がおられます。具体的には:
1.子供(養子を含む)とその代襲相続人(注)。もし配偶者が懐妊されている場合、胎児も生まれると同時に相続権を得ます。
2.直系尊属
3.兄弟姉妹及びその代襲相続人。
これは、まず配偶者が必ず相続人になり、その次に上記1.2.3.に該当する方がいる場合はその順番に相続権が発生するということです。具体的な事例は後述の「法定相続分を具体的に例示して下さい。」をご覧ください。
(注)例えば、被相続人に子供がいたにもかかわらず被相続人よりも先に亡くなっていた場合など、仮にその子供に更に子供がいる(つまり、被相続人の孫)場合はその方に相続権が発生します。
相続人が相続の資格を失う場合はありますか。
はい。仮にある相続人が相続により不当な利益を得ようとしたりあるいは実際に得た場合はその相続人は当然に相続権を失います。具体的には:
1.相続人が故意に、被相続人、同順位あるいは先順位の他の相続人を殺害したりその未遂の事件を起こし刑に処された場合。
2.相続人が、被相続人が何者かに殺害されたことを知りながら告訴・告発しなかった場合。ただし、相続人が善悪の区別がつかない状態にあった場合や殺害者が相続人の配偶者や直系の血族である場合は除く。
3.相続人が、詐欺や脅迫により被相続人の遺言の作成、取消しあるいは変更を妨害した場合。
4.相続人が詐欺や脅迫により被相続人の遺言の作成、取消しあるいは変更を強要した場合。
5.相続人が被相続人の遺言を偽造、変造、破棄あるいは隠匿した場合。
将来相続人となりうる者からひどい仕打ちを受けています。このような者に相続させない手立てはありますか。
はい。このような場合は家庭裁判所に相続廃除の申し立てをすることが可能です。例えば、以下のような場合に家庭裁判所は相続人の廃除を認める場合があります。
1.生前、被相続人に対して虐待や侮辱を行った場合。例えば、年老いた方を冷酷に殴り飛ばし骨折させたなど。
2.その他の著しい非行。例えば、働きもせずに生前被相続人にさんざん金の無心をくり返し更にはせっかく仕事を世話してやったにもかかわらずすぐに辞めて繰り返し金銭をだまし取るなど。
相続分に決まりはありますか。
複数の相続人が存在する場合はそれぞれの方の相続分に決まりがあります。まず、誰が何を相続するかは基本的に遺言による指定で決まります。遺言が存在しない場合は法定相続分が適用されます。注意点として、法定相続分は預金や不動産などの「積極財産」だけではなく借財などの「消極財産」にも適用されます。もし、消極財産が積極財産を上回る場合、相続人は債務を負うことになります。
法定相続分を具体的に例示して下さい。
以下の通りです。
1. 配偶者と子供
配偶者は財産の半分を相続します。子供は残りを平等に分割します。つまり、子供が二人いる場合は、それぞれが四分の一ずつを相続します。更に、被相続人に非嫡出子がいる場合ですが、この場合嫡出子と同様に相続できます。ただし、その非嫡出子の親(例:被相続人の愛人など)は相続できません。ですので、被相続人に配偶者、嫡出子および非嫡出子がいる場合、非嫡出子は四分の一を相続します。
2.配偶者と直系尊属
配偶者は三分の二を相続します。直系尊属は残り三分の一を平等に分割します。このケースは被相続人に子供がいない場合です。
3.配偶者と兄弟姉妹
配偶者は四分の三を相続します。兄弟姉妹は残りを平等に分割します。ただし、このケースは被相続人に子供や直系尊属がいない場合です。
4.異父(異母)兄弟(姉妹)がいる場合
条文は、「子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。」とあります。
具体例を以下に示します。
まず、被相続人に配偶者がおり子供と直系尊属はいないが二人の兄弟(姉妹)が全く同じ両親、もう一人異父(異母)兄弟(姉妹)に相続権が発生したという前提で例を見ます。
この場合、やはり配偶者が四分の三を相続します。そして、残りの四分の一を兄弟姉妹で分割しますが異父(異母)の兄弟あるいは姉妹は注意が必要です。条文では「父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。」とありますので、同じ両親の兄弟(姉妹)2人を甲乙、異父(異父)の兄弟(姉妹)を丙とした場合割合は1:1:1/2となります。つまり、甲の相続分は1/10,乙も同じく1/10、そして丙は1/20となります。
更に、被相続人に兄弟姉妹のみが存在して相続権が発生し、上記の甲乙丙のような事情の場合です。
この場合は当然遺産を甲乙丙のみで分割しますがやはり上記の条文が適用されます。割合は甲2/5,乙2/5,丙1/5となります。
被相続人に既に他界している子供がいて、その子供に更に子供(つまり被相続人の孫)がいる場合、どのように相続に影響しますか。
既に他界している子供のお子さんが「代襲相続」します。もし、既に他界している子供に複数の子供がおられる場合、財産は平等に分割されます。
代襲相続は何によって発生しますか。
相続人の死去、欠格および廃除によって発生します。ただし、相続人が相続を放棄した場合は発生しません。
相続には承認と放棄があるらしいですが、それはどうしてですか。
相続人は、上述の通り消極財産も相続しますので場合によっては相続をしたくないということもあり得ます。よって、相続人には承認または放棄の選択が認められています。
相続の承認は一律ですか。
いいえ。単純承認と限定承認があります。
単純承認とは何ですか。
全ての権利と義務を承継することです。まず、相続人が相続発生を知ってから3か月(熟慮期間)を過ぎると単純承認したものと自動的に見なされます。更に、相続人が熟慮期間に財産の全てあるいはほんの一部でさえ処分した場合も単純承認したものとみなされます。
限定承認とは何ですか。
相続人が限定承認を選択し、仮に被相続人に生前債務があった場合相続人は相続した積極財産の範囲内のみで履行することになります。つまり、債務履行後にまだ財産が残っている場合相続人はその残った財産を手元に残すことができますし、積極財産の範囲内での履行後にまだ債務が残っていてもそれ以上の履行の義務は負いません。ただし、限定承認は相続人が複数存在する場合は全ての相続人の同意がなければできません。また、相続人が相続発生を知ってから3か月以内(熟慮期間)に家庭裁判所に申述しなければなりません。
相続放棄とは何ですか。
相続人がすべての権利と義務を放棄することです。限定承認と異なり相続放棄は相続人一人でできます。相続放棄を希望する場合、相続人は相続開始を知ってから3か月以内に家庭裁判所に申述しなければなりません。相続放棄をした場合、その相続人は初めから相続人でなかったものとなります。
遺産はどのように分割されますか。
以下の通りです。
1. 遺言書による指定(原則)
2. 相続人の同意(全ての相続人の同意が必要)。
3. 裁判所の調停あるいは審判(相続人が同意しない場合)。
遺産分割を具体的に例示してください。
以下の通りです。
1. 実際の財産の分割。
もし被相続人が不動産と現金を遺した場合、配偶者が不動産をそして子供が現金を相続するなどです。これが、最も基本的で典型的な分割方法です。
2.代償による分割。
被相続人が不動産のみを所有していた場合、配偶者がその不動産を相続し子供が配偶者から自身が受け取ることができる額の現金をもらうという方法です。配偶者は子供に、子供が受け取ることができる額と同じ価値の品物を渡すこともできます。
3.換価による分割。
被相続人が生前不動産のみを所有し、相続人が遠くに住んでいてその不動産を売却するという選択をした場合に売却で得た金銭を相続人で分割するという方法です。
被相続人が相続財産の分割を禁ずることができると聞きました。本当でしょうか。
はい。被相続人は遺言書で5年を超えない期間で相続財産の分割を禁ずることが可能です。
遺産分割の効力はいつ発生しますか。
遺産分割には遡及効があります。つまり、相続開始にさかのぼって効力が発生すること意味します。これは、第三者の権利を害することはできません。
もし、先順位の相続人に実際には相続の権利がなかった場合はどうなりますか。
真正の相続人はその相続人を名乗る者に対して財産の占有および支配の回復を要求できます。ただし、この権利は真正の相続人あるいはその代理人が侵害されたことを知ってから5年、相続開始のときから20年で消滅しますので注意が必要です。
もし、被相続人から生前に遺贈や贈与(例えば学費の援助など)を受けていた相続人がいる場合、相続にどのように影響しますか。
その方は既に特別な利益を得ていたことになります。よって、分割すべき財産を計算する場合は相続開始時に被相続人の手元にあった財産に生前渡された特別な利益を加えます。仮に相続人が二人いて平等に分割される場合、それぞれが受け取る額は上記の合計額を2で割った額になります。2人の内1人は既に被相続人の逝去前に特別な利益を得ていますから、この方が受ける額は上記の合計額を2で割った額からさらに既に受けている利益の額を差し引いたものとなります。具体的には以下の通りです(相続人は甲と乙とします)。
1.被相続人が逝去時に一千万円遺しました。
2.甲は被相続人の逝去前に六百万円の贈与を受けていました。
3.1の一千万円と2の六百万円を加え(計千六百万円)これにより甲と乙が受け取る額を計算します。
4.甲と乙は平等に相続しますので、それぞれ八百万円受け取ることが出来そうです。
5.しかし、甲は既に六百万円の贈与を受けていますのでこの場合は二百万円だけ受け取れます。
6.乙は実際に八百万円を受け取れます。
上記のように生前に利益を受けていた相続人がいる場合の分割額を決める際に例外はありますか。
もし、被相続人と配偶者が20年以上婚姻関係にあり、居住用の不動産が配偶者に贈られていた場合は、上記の特別な利益から除外されます。
生前に故人と特別な関係にあった者が相続できる場合があると聞きました。本当でしょうか。
内縁関係にある配偶者、事実上養子になっている方あるいは故人の看護や介護に努めた方々などは故人と特別な関係にあったと言えますが相続権はありません。ただし、故人に相続人がいないあるいは生前に遺言書を記していない場合には家庭裁判所に申述することにより故人の財産の一部あるいは全部を受け取れる場合があります。
故人に相続人や生前特別な関係にあった方がいない場合、その方の財産はどうなりますか。
すべて国庫に帰属することになります。
もし被相続人が居住用不動産を所有し配偶者と共にずっと住んでいて、その居住用不動産が相続の対象となった場合、配偶者はそこに住み続ける権利を得ることはできますか。
以下の2つの居住権が認められます。
1.相続開始時に、配偶者が被相続人の所有するあるいは被相続人と共有している居住用不動産に住んでいる場合、遺贈あるいは遺産分割によりその居住用不動産の全部を無償で使用・収益することができます(ただし、被相続人が相続開始時にその居住用不動産を配偶者以外の者と共有していた場合は除きます)。配偶者居住権と呼ばれ(1028条)、この権利は基本的に配偶者が存命の限り存続します(1030条)。
2.配偶者が被相続人の所有する居住用不動産に相続開始当時無償で住んでいた場合は、一定期間その無償で住んでいた部分に無償で居住する権利を有します。配偶者短期所有権と呼ばれ(1037条)、分割協議によって最終的に誰がその居住用不動産を相続するかが決まるまであるいは相続開始から6か月経過する日までのいずれか遅い日までという制限があります。
WILL
遺言
被相続人の財産は、原則遺言の内容に沿って分割されます。具体的には、どの相続人にどの財産を与えるかを指定するのが遺言書の趣旨です。但し、ただ記せば被相続人の遺志が相続の際に反映されるかと言えばそうはいきません。やはり民法によっていくつかの条件が定められています。
まず遺言の方式ですが、これは法律で定められていますか。
はい。法律で定められている方式に背いている遺言は無効です。
どのような方式がありますか。
「普通方式」と「特別方式」です。
特別方式とはどのようなものですか。
特別方式には4種類あります。
1. 死亡の危急に迫った者の遺言
2.伝染病隔離者の遺言
3.在船者の遺言
4.難船遭難者の遺言
遺言を記すにあたり年齢による制限はありますか。
満15歳にならなければ遺言書を作成することはできません
成年被後見人は遺言を作成できますか。
はい。ただし、事理を認識する能力を回復していることが条件です。更に、医師2名以上の立会いが必要です。
2人の人が一枚の用紙に共同で遺言することはできますか。
いいえ。これは「共同遺言」と呼ばれ民法975条によって禁じられています。
普通方式というのは単に1つの形態ですか。それとも異なる種類がありますか。
実際に、以下の3種類があります。
1. 自筆証書遺言
2. 秘密証書遺言
3. 公正証書遺言
自筆証書遺言の作成方法を教えてください。
遺言者が内容の全文、日付(注)及び氏名を遺言者自身の手で記すことが条件です。更に作成年月日、氏名を自身の手で記し最後に押印します。
ただし、財産目録を付す場合はパソコンなどを用いても構いません。この際財産目録のそれぞれのページに署名と押印が必要です。
(注)日付のない遺言書は無効です。更に、仮に月と年が記されていても完全な日付が記されていない場合は無効です。
もし、自筆証書遺言の内容に変更が生じた場合、どのようにしなければなりませんか。
内容の変更、具体的に削除や加筆を行う場合、遺言者はその部分を提示し、変更事項を記し、その変更部分に自署・押印をする必要があります。
自筆証書遺言は遺言者自身が必ず保管しなければなりませんか。
いいえ。法務局に保管してもらうことが可能です。
秘密証書遺言の作成方法を教えてください。
手順は以下の通りです。
1.遺言者が自署・押印をすることは条件ですが、パソコンや点字機などを用いて内容を記しても構いません。また、代筆も可能です。
2.遺言者が証書を封筒に入れ、証書に用いた印鑑で封筒に押印します(封印)。
3.遺言者が、2人以上の証人の前で公証人に封じられた証書を提出し、自身の氏名、住所及び証書が自身の遺言書である旨を述べます。
4.公証人が、封筒に提出日と遺言者の申述内容を記し、遺言者及び証人と共に署名・押印します。
*尚、秘密証書による遺言は、上記の方式に欠けるものがあっても、自筆証書遺言の方式を具備しているときは、自筆証書による遺言として有効です。
公正証書遺言の作成方法を教えてください。
公正証書遺言は、法令で定められた様式に則した形で公証人が証人2名以上の立会いのもとに記します。専門家によって記されますので、一番確かな遺言書と言えます。
遺言の証人には条件がありますか。
以下に当てはまらなければどなたでもなれます。
1. 未成年者。
2.相続人となりうる方、遺贈を受けられた方およびこれらの配偶者や直系血族。
3.公証人の配偶者、四親等内の親族、書記および使用人。
遺言書の効力はいつ生じますか。
遺言者が亡くなると同時です。
遺言に条件が付けられていた場合はどうなりますか。
遺言者の死後、その条件が成就した時点で効力を生じます。
相続開始を知った後に、遺言書の保管者は何をしなければなりませんか。
検認が必要になりますので家庭裁判所に遅滞なく遺言書を提出して検認を受けなければなりません。遺言の保管者がいない場合(遺言者が自身の金庫や机の引出しに入れていた場合など)は発見者が提出します。尚、公正証書遺言は検認の必要がありません。更に、自筆証書遺言が法務局に保管されていた場合も検認は必要ありません。
検認とは遺言書の有効性の検証を意味するのでしょうか。
いいえ。これはただ単に遺言書の状態を調べるだけです。
遺言書情報証明書なるものが存在すると聞きました。これは何でしょうか。
自筆証書遺言は法務局で保管してもらうことができます。法務局ではまず、遺言書保管官によって遺言書が民法の定めに則して記されているか否かの外形的なチェックが行われます。その後、発行されるのが遺言書情報証明書です。
遺言書を開封する際に注意する点はありますか。
封印された遺言書は、家庭裁判所にて相続人あるいは相続人の代理人が立ち会うことなく開封してはいけません。
検認の定めに違背した場合に罰金などが科されますか。
以下の場合に5万円以下の過料が科せられます。
*検認のための提出の怠り。
*検認を受けずに遺言を執行した場合。
*家庭裁判所の外で遺言書を開封した場合
遺言執行者とはどのような方ですか。
文字通り相続人に変わって遺言の内容を執行する方です。
遺言執行者はどのように指名されますか。
多くの場合は遺言書で指名されますが、相続開始後に家庭裁判所によって指名される場合もあります。
遺言執行者の最初の任務はどういうものでしょうか。
遅滞なく遺言の内容を相続人に知らせなければなりません。
遺言執行者にはどのようなことが認められていますか。
遺言執行者は遺言執行のために必要な財産の管理など全般にわたる行為の権利と義務を有します。
遺言執行者が義務を履行した場合、どのような結果になりますか。
その効果は相続人に帰属します。
相続人が遺言執行者を妨害した場合、どうなりますか。
妨害行為は禁止されています。このような行為は無効です。
遺言を撤回することはできますか。
遺言者はいつでも自由に遺言書の方式によって遺言書の一部、あるいはすべてを撤回できます。
前に記した遺言書が撤回したものとみなされる場合があると聞きました。どのような場合でしょうか。
例えば以下の場合です
*前の遺言と後の遺言の内容に抵触がある場合。
*遺言書に記されていた財産を処分したり誰かに譲ったりなど、遺言書を記したのちにその内容に抵触がある場合。
遺言者が故意に遺言書を破棄した場合はどうなりますか。
破棄された部分に関しては撤回したものとみなされます。更に、遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄した場合、遺言書の中の破棄された遺贈の目的物に関する記述は撤回されたものとみなされます。
遺言者は自身の撤回権を放棄できますか。
遺言書のそもそもの目的は遺言者の遺志を形にすることですので、仮に遺言者が強く撤回権の放棄を主張したとしてもそれは無効です。
遺言者が指定する相続人それぞれに対する相続分は必ずその通りになりますか。
遺言者が指定できる相続分には制限があります。例えば遺言者に正妻と愛人が存在し、愛人に財産の全てを相続させると記したとしても正妻は遺留分と呼ばれる最低限の相続分の権利を主張できます。
遺留分を具体的に例示して下さい。
以下の通りです。
1. 相続人が直系尊属のみの場合:三分の一
2. その他の場合:二分の一
3.複数の相続人が存在する場合:この場合の割合はそれぞれの相続人の法定相続分に上記の割合をかけたものになります。具体的に、遺言者に配偶者と子供がいる場合、遺言者は財産の半分をこれらの方々に遺さなければなりません。仮に遺言者に愛人がいてその方に財産を渡したい場合はその残りを渡すことになります。
更に留意する点として、遺言者の兄弟姉妹には遺留分はありません。
更に具体的な遺留分の割合は以外の通りです。
相続人 | 遺留分 | それぞれの相続分の割合 |
---|---|---|
配偶者と子供 | 1/2 | 配偶者1/4、子供1/4 |
配偶者と直系尊属 | 1/2 | 配偶者2/6、直系尊属1/6 |
配偶者と兄弟姉妹 | 1/2 | 配偶者1/2、兄弟姉妹なし |
配偶者のみ | 1/2 | 配偶者1/2 |
子供のみ | 1/2 | 子供1/2 |
直系尊属のみ | 1/3 | 直系尊属1/3 |
兄弟姉妹のみ | なし | なし |
遺留分にもかかわらずもし遺言者が愛人に財産の全てを遺贈してしまった場合、その遺贈は無効ですか。
いいえ、遺贈そのものは無効ではありません。もし相続人の遺留分が侵害された場合は侵害をした者(例えば上記の場合、愛人)に対して侵害された分と同額の金銭を求めることができます(遺留分侵害額請求権)。
遺留分侵害額請求権は裁判で行使しなければなりませんか。
必ずしもそうではありません。もちろん裁判を起こすことも可能ですが、侵害者に内容証明を送って侵害額返還の請求もできます。
遺留分侵害額請求権は相続人が存命の限り永久に行使できますか。
いいえ、この権利は相続人が相続の発生を知り、また相続人が自身の遺留分を侵害する遺贈や贈与があったことを知ってから1年で消滅します。更に、相続発生から10年経った後も消滅します。
遺留分は放棄できると聞きました。本当でしょうか。
はい、相続開始前に遺留分を放棄することは可能です。但し、家庭裁判所に申し立てる必要があります。
遺留分を放棄される方々はどのような理由からでしょうか。
相続人の方々の中に、他の相続人とのいざこざ(つまり"争続")を避けるために遺留分を放棄される方がおられます。以下のような例があります。
仮に4名の相続人がいたとして、その内の甲が被相続人の逝去前に遺留分を放棄したとします。
乙は被相続人の配偶者、丙と丁が被相続人の嫡出子で甲は非嫡出子です。更に甲は事業に成功してかなりの財産を既に築いています。
被相続人は乙丙丁が甲と良い関係にないことを知っていて、甲に生前三百万円を贈与して遺留分を放棄するよう頼みました。これにより乙丙丁とのいざこざを回避するためです。
そして被相続人が亡くなり相続が発生し、5,700万円の財産が遺っていたとします。となりますと、相続人の遺留分は配偶者と子供のみで計算すると3,000万円となります。話は前後しますが、甲は生前に300万円受け取っておりますので相続の対象になる額は5,700万円と300万円を足した6,000万円です。これが3,000万円の遺留分の根拠です(6,000万円×1/2)。
甲の法定相続分は1,000万円(6,000万円×1/2×1/3)で遺留分は500万円(6,000万円×1/2×1/2×1/3)です。しかし、甲はすでに遺留分を被相続人の生前に放棄していますので相続発生後200万円(遺留分500万円から贈与された300万円を引いた額)をよこせということはできません。これによって、もしかしたら乙丙丁との"争続"の発生を回避することが出来るかもしれません。
ただし、遺留分放棄は生前に相続放棄することではありません。ある方はもしかして、将来相続人になられるある方に既に十分な財産をお与えになっていることからその方に遺った財産は渡さず、残りの相続人の方々で遺産は仲良く分けさせたいので、自分がご存命の内に遺産を渡したくない方に相続権を放棄させたいとお考えになるかもしれません。しかし、この場合遺留分放棄をしたとしても相続を放棄したことにはなりません。ご注意ください。
相続開始前に一人の相続人が遺留分を放棄した場合、残りの相続人の遺留分に影響は及びますか。
いいえ。影響が及ぶことはありません。